モロッコ

/ 情報誌『デス・ウオッチング』91.2より


 
 モロッコは北アフリカにある人口約2千万の王国である。この国はイスラム教が支配し ており、葬儀は当然その教義のもとに行なわれる。
 死期が近づいてくると本人は「アッラーのほかに神はなく、ムハンマドは神の使徒な り」の信仰告白を唱える。また意識があるうちに家族や近親者を呼び、互いに相手にし たよくない行ないを許し合うことが習慣となっている。次に近親者は死んで行く人の唇 を水で湿し、息がなくなると瞼と口を閉じ、両方の親指を組んだ形に固定する。次に同 性の近親者が湯灌をし、イスラム教の導師によって白の衣が全身に巻かれる。イスラム 圏では死亡から埋葬までの時間は短く、午後2時までに死亡した場合にはその日のうちに 埋葬し、それ以後でも遅くとも次の日の午前中には埋葬を終える。
 

   埋葬式


 死者は代々の墓地に埋葬される。埋葬式に参加するのは近親・隣人・友人の順で、都 会では女性は埋葬式に参列しない。墓地が近くにある場合は、遺体を棺台に乗せ、近親 者たちが担いでいく。葬列は棺台が先頭に立ち、この後を会葬者が信仰告白を唱えなが らつき従っていくのである。墓地が遠い場合には墓地まで車で運び、墓地の門から墓ま でを棺を担いでいく。墓地についたら、まず棺を墓穴の横に置き、導師がコーランの一 章を唱えてから、墓穴に埋葬する。この時、右脇を下にし、面がメッカの方角を向くよ うにして埋められる。埋葬の後、土盛りにバラの水が注がれ、参列者一同がコーランを 唱えて儀式を終える。
 

   弔問


 死者の家では玄関に粉を入れた容器が3日間置かれ、弔問客はこの粉を手につけて家 に入る。日本の清め塩みたいなものであろうか。遺族にお悔やみの言葉を述べる。埋葬 のあった夜には牛の料理が弔問客に振る舞われるが、これを用意するのは親族と隣人の 仕事で、遺族は3日の間家では火を使わない。農村と都会での葬儀の違いはなく、ただ 悲しみの表現が農村部の方が激しいという。号泣とともに頭に土をかけたり、自分の髪 を引きむしったり、土器を割ったりするのである。
 

   法事


 3日目と40日目には法事を行なう。3日目の法事には、埋葬に間に合わなかった近親 者たちが参列する。遺族は死の当日からこの日まで、服喪の印としてひげも剃らず、服 も着替えない。3日目の法事には、早朝から遺族の女性は初めて墓に行き、導師にコー ランの一章を唱えていただく。このあと墓地の門に集まっている物乞いの人たちに食べ ものやお金を死者の名前で喜捨する。この日の夜は近親・隣人が集まり、導師による読 誦のあとで皆で食事を取る。
 

   死後の世界


 イスラム教のシーア派の祖アリーは、死後の様子を次のように語っている。「死後魂は 彼の肉体を抜け出し、家族縁者の前に空しい屍となって横たわる。やがて彼を地中に埋 葬した後に訪れる人のあとも絶える。とうとう彼の運命の記録の最後の頁が繰られ、最 後の審判の下るのを待つばかりとなる。そしてその日には天地はぐらぐらと揺れ動き、地 中に埋葬されていた者たちはことごとく引き出される。そして神はそれぞれ隠していた 彼らの行動を審問し、彼らを2つの群に分け、一方には恵みを他方には罰を下す。現世 で神の命に忠実に従っていた人々は神の館を永遠の住処と定められ、神の命に背いてい た人々は燃えさかる火の上着を着せられる。」
 (資料:『イスラム世界の人びと』より中野暁雄「モロッコの都市と農村の比較生活誌」東洋経済新報社。『存在認識の道』サドラー著、岩波書店)



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