ヴェッダ族
/ 情報誌『デス・ウオッチング』92.2より
ヴェッダ族はセイロン島中東の原住民で、現在はシンハリ人と混血している。セイロ
ン島そのものでは仏教徒が7割を占めているが、今回は原住民の本来の葬儀をみてみるこ
とにする。これをみると死者を扱うもっとも古い形式ではないかと思われるほど、その
形式は素朴である。
死体遺棄の習慣
ヴェッダ族は岩屋から岩屋ヘと放浪し、狩猟の獲物とヤム芋と蜂蜜で生活するのが彼
らの様式である。死が訪れてから死体の洗浄をしたり死装束を着せる風習はなく、仰向
けにするだけである。未開のヴェッダ族では遺体の胸の上に石を乗せるが、その意味は
わかっていない。
ヴェッダ族の葬法はもともと埋葬でなく、遺体を置いて、その上をわずかに木の枝で
覆い、できるだけ速かにその場所を去るというものである。これは埋葬するに適わしい
土地を持たぬためではなく、彼らの慣習的な葬法であったとされる。こうした葬法は
ヴェッダ族本来の葬法で、かっては広く行なわれていたという。
彼らは死の起った場所に遺体を放置し、大急ぎでその場所から移住する。移住する理
由の1つには、死の起った場所に止まると死者の霊(ヤカ)から石を投げつけられるから
だという。住居を捨てるのもヤカに対する恐怖からで、死者の霊魂はある期間、死体の
残された場所に残ると考えられている。
死の汚れと払浄
ヴェッダ族では、死の汚れに対する観念が欠如しているという。その理由として死者
の遺品が忌避されないこと。また埋葬のために死体を搬出した男も、そのあと浄めを行
わないという。遺体を葬り何年かして、再び帰ってきて岩屋に遺骨か残っていると、そ
の遺骨を大事なものとして扱うことなく、くさむらの中に投げ込むという。しかし遺体
のある場所を去ることは、死霊に対する恐れがあるからである。
ヴェッダ族の葬法では死体放棄の風習から、文明の発達に伴って埋葬への移行が見ら
れるが、その間に死の汚れの観念は生まれなかった。
副葬品
ヴェッダ族の副葬の原初の形は、死者の愛用したベテル袋ですら副葬にしない。死者
には水も食物も手向けられず、火も燃されないままに放置されるのである。開化ヴェッ
ダ族ではココ榔子の花や果実、女には首飾り、男には弓矢、斧、ベテル袋、火打石、銃
弾が副葬される。
死霊観念と他界観
未開ヴェッダ族では死者は死後ヤカ(霊)となるとされるが、墓の付近に死霊が存統
するという観念は漠然としており、その死後の存続については考えず、死霊に対する供
物もなく、祈祷もしない。
開化ヴェッダ族では、死者の霊魂の死後存統の観念が発達し、満月に墓で食事をし、死
者のために踊り、死者の名を呼んでこれに助力を求めるが、神の観念はないという。こ
の満月の夜の行事はおそらく盂蘭盆の一種で、農耕文化に伴う祖霊祭である。セリグマ
ンによれば、ヴェッダ中でも最も未開なシタラ・ワニヤ族でも、死霊は死後5日目にカン
デ・ヤカ(祖先神)の許可を得てヤカとなり、生者を助けたり、供物を受けたりすると
いう。この5日問の死者の状態は不明である。
祖霊となる
巫者に呼び出された死霊はヤム芋、蜂蜜および獲物のことを語り、死霊の恩寵として
供物のココナッツ乳か水を死者の親族にふりかけることもある。また獲物を捕るための
儀礼では、カンデ・ヤカ(祖先神)が勧招される。ヴェッダでは祖先神以外の神は存在
しないのである。
死体放棄をする未開ヴェッダ族と死霊に助力を求めるヴェッダ族との間には関連がみ
られないのである。死霊を祭祀するのは、埋葬にさいして副葬する開化ヴェッダに首尾
一貫して存在しているものである。
死霊は死後カンダヤカの許に行くという。カンダヤカは死者の王であり、傑出した狩
人であり、祖先の英雄である。部族が文明化されるにしたがい、神話も誕生するのであ
る。
(資料、(資料:棚瀬襄爾『他界観念の原始形態』)
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