アメリカの事前葬儀設計
最近、個性的な葬儀をしたいという声が多くなっている。これは葬儀が形式的である、 感動しない、などの理由から起きているが、だからといって一昔前のような葬儀無用論 とも違う。葬儀は必要であるが、もっと個性的なものをしたいと思っているのである。し かしそう望んでもそれを実施している人は、そんなに多くはない。その理由としては3 つ上げられる。
これが実態である。しかし最近、マスコミでも葬儀の事前契約、自由な葬儀というも のを取り上げており、一般の人々の関心を引いている。確かに死が訪れてから考えてい ては、個性的な葬儀というものはむずかしいが、あらかじめ葬儀を準備しておればそれ はむずかしいことではないように思われる。
では個性的な葬儀を実施している先進国のアメリカではどうであろうか。それを見て いきたい。
アメリカでは、南部や東海岸など伝統を大切にする地域では、昔ながらの葬儀が残さ れているが、サンフランシスコなど西海岸の都市部では、火葬が増大して伝統的な葬儀 が少なくなってきている。
「葬儀は伝統に従わなければならない」というルールも失われ、また伝統的な葬儀のや り方を知っている人も少なくなっている。しかし、もし伝統と異なる葬儀を望むなら、そ れに変わるものを作らなければならない。そのためには、それに協力してくれる葬儀社 を見つけなければならない。
『葬儀は生きている人のためにある』、というのが現在の葬儀の傾向である。しかし、死 んでいく人の最後の望みの方が大切もっとにされる。しかしそのためにはあらかじめ自 分がしたいと思う葬儀を決めなければならない。そしてその希望を葬儀社に伝えなけれ ばならない。それをすることが、人生の締めくくりとなるかもしれない。
さて以下は葬儀場で行なわれた特別な葬儀の例である。
●残された子供たちのために企画された葬儀
葬儀は死者の知人・関係者が多く集まり、残された子供たちのために行なわれること は少ない。しかし次にあげるものは、子供のために特別に考えられた葬儀である。
父親のフイリップが癌と診断されたとき、子供たちのロスとブランドンはまだ2歳で あった。そして翌年に父親が死んだ。彼らの母のビバリーは夫の死ぬ前に、2人の子の ための葬儀について話し合った。夫は子供たちが死を理解する助けとなると思い、同意 した。彼が死んだあと、ビバリーは、牧師と葬儀社に特別な葬儀が出来るかどうかをた ずねた。
彼らはびっくりしたが、それを行なうことに同意した。ビバリーは子供たちのために 葬儀をすると友人や家族に告げ、子供たちが望むなら、彼らを連れて来ることは自由で あると言った。およそ3歳から7歳の子供たち25人以上が葬儀場に現れた。
葬儀は日曜日に行なわれた。喪主のビバリーは、会葬に来た子供たちに、感謝の言葉 を述べ、彼らに次の部屋に入ると、棺に彼の遺体が横たわっていると説明した。彼女は それにつけ加え、子供たちが遺体を見たあと、眠りに対する恐怖を除くために、死は、眠 ることとは違うことを説明した。子供たちが希望するなら、遺体に触れてもよいといっ た。次にピート牧師は、死について彼らと話し、泣いたり、知りたいことはどんな質問 をしてもよいと言った。
子供のために折畳椅子が、棺の前に置かれた。どの子供も椅子に乗って、フイリップ の体に触った。次に牧師と両親と子供は床に輪になって座った。そして牧師はさなぎと 繭とチョウについて話した。彼はチョウのように肉体から魂が抜け出ると説明した。そ れから彼に、多くの子供が質問をした。
ビバリーと両親と牧師による答えは、オープンで正直だった。参加した子供たちの両 親のほとんどがすすり泣いた。式は30分間ほど続いて、そして全員の合唱で『私を愛す イエス』を歌って終わった。そのあと子供は、棺に花を入れた。
(資料:キャサリーン・サブレット著『ファイナル・セレブレーション』)
●ジャズ愛好家の葬儀
マイケルは子供の頃からサキソホーンを演奏し、ジャズを愛していた。彼が不治の癌 と聞かされたとき、マイケルは妻に、2つのことを依頼した。一つは彼の棺のなかに、サ キソホーンを納めること。そして出棺の時には、彼の大好きなジャズのカセットを流す こと。お別れと葬儀に出席した誰もが、すばらしかったと述べた。これくらいのことは 日本の葬儀でも珍しくない。ただし火葬をする際に楽器を入れたままにすることは出来 ないだろう。
●古典的なアイルランド式葬儀
次の葬儀も『ファイナル・セレブレーション』からとった。
アイルランド人のリチャードは、シカゴの南部で育ち、そして何年もパブを経営して いた。彼は、誰にでも彼の祖国に対する愛情を伝えた。あるとき彼は、友達(葬儀社)に 伝統的ななアイルランド様式で葬儀をすることを頼んだ。友人の一人が宴会係を引受け、 葬儀場にバーと食卓を設置した。家族と友達が到着したとき、会場には祝賀会の雰囲気 があり、彼のために多くの人々が乾杯をした。
●愛犬と共に
ドロシーという女性は大変な愛犬家であった。彼女が未亡人になって以来、犬が彼女 の仲間であった。彼女はある朝目覚めた時、犬が死んでいるのを見た。そして隣人が、裏 庭に死骸を埋葬してくれた。その後で彼女はある考えを思いついた。犬を火葬にし、彼 女が死んだとき、彼女と一緒に犬の 骨灰を埋葬する。これが可能かどうかを葬儀社に尋ねた。 葬儀社がやってきて、庭から犬を掘り出し、火葬するために 犬の火葬場へ持って行った。葬儀 屋とドロシーは、彼女が死んだとき犬の骨灰を彼女の特別のコンテナであ る棺に入れることに同意した。彼らが死んだあと再び一緒になれると知ることは、彼女 に大きな慰めを与えた。
●9つの領域に火葬灰をまく
ロバートは彼が62歳のとき、自分のための事前葬儀を準備した。ロバートの死後、葬 儀社がそれをチェックした結果、彼の最後の望みに驚いた。彼は火葬を望み、彼の火葬 灰をアメリカ合衆国の9つの異なる場所でまいてほしいと願った。葬儀社は、これらの 望みを実行した。9つの 別々の容器に入れて、頼まれた場所にそれをまいたのである。彼 の弟は葬儀社に、最後の望みについて尋ねた。葬儀屋は、ロバートの資料を彼に見せた。 彼の弟は、涙を抑えることができなかった。彼は ロバートがそのように時間をかけて、早 めに準備したことを大変喜んだ。
「もし ロバートが事前設計をしなかったならば、何を行なうか、彼の最後の望みが何で あったかを知らなかった」
彼は兄の生き方に感動していて、後で彼は自分の葬儀プランをした。
●火葬灰を預かります
ロンドンのリトル・パブ社は、経営する酒場の1つで顧客が死に、それがニュービジ ネスのヒントになった。顧客は8000ドル(68万円)で、長年通った大好きな座席の下に 彼の火葬灰を安置することができ、毎年乾杯を受けられるというもの。火葬灰はパブの どこにでも安置することができる。費用には、骨壷と 銅製の壁掛け板と毎年の追悼会が含まれる。
次にはオールバリー著『上手な死に方』(二見書房)の六章に、手作りの葬式という章が ある。そこから個性的な葬儀を拾ってみた。
●仲間による埋葬
小説家のケン・キージは交通事故で死んだ息子の葬儀を行なった。葬儀には300人位が 集まった。死者の母親がコピーした讃美歌を手に皆が歌い、一人がバイオリンを演奏し た。そして棺が墓穴まで運ばれると、皆が列を作って棺のなかにそれぞれの品を納めた。 それらは銀の笛、腕時計、スナップ写真、新約聖書などであった。そして詩を読み上げ るなかで、青年たちはポケットに入れてきた釘を一本ずつ打ち付けた。友愛会の会員た ちは酒の入った杯を回し飲みして別れを告げ、ロープで棺を墓穴へと下ろした。
●自分たちで作った棺
イギリス人ディドラ・マーチンは母親の葬儀をした。彼女はブライトンの火葬場に出 向き、自分で棺を作り、葬儀の手配をしても構わないことを聞きいた。長女はお茶の時 のケーキを焼き、母の人生を表す写真や晩年に描いた絵を展示する係。弟はステーショ ンワゴンに棺を積む係。他の家族は葬儀で母の愛読書を朗読する係というふうに各自が 分担して行なわれた。葬儀の時間は30分で、献花は辞退したが、花篭にドライフラワー を盛り、棺の上に飾られた。そして葬儀は火葬場の礼拝堂で行なわれ、そのあと遺体は 火葬になった。
●一人一輪の花
白血病で八歳で死亡した子供の葬儀では、友達が彼女のために描いた絵が教会の回り にずらりと貼られた。人々は持参した花一輪を棺の上に供えた。そして数人のこどもた ちが詩を読んだ。参列者全員に、キャンドルと、黄色いスイセンが渡された。墓での祈 りがすむと、墓穴に一斉にスイセンが投げ入れられ、みんなで一緒に「主の踊り」が歌 われた。
突然身内の死を迎えた場合、あらかじめ葬儀設計が準備している人は少ない。遺族も 故人の望みが分からない。そこで聖職者や葬儀社に計画を一任することになる。しかし、 これからは自分の葬儀を計画する人が増えてくるように思われる。そこで次に、自分自 身、あるいは故人の葬儀計画のための概略を示した。
資料は同じくキャサリーン・サブレットの『ファイナル・セレブレーション』である。
愛する人を失ったことを認知させる。そして重要なことは、生存者が希望を失わない ことである。故人について好意的、及び非好意的な話をすることで、生存者は死を受け 入れる一歩を歩み始める。
次の項目はウェスナー・アソシェーションが考案した、葬儀設計書のなかの選択項目 である。
これをみると、無宗教に近い葬儀ほど、アメリカと日本の儀式に差が見られないよう になる。
次の表は、葬儀に必要な項目とその費用を表したものである。棺一つとっても、値段 に幅があるので、単に棺と書き残しただけでは、料金の設定は出来ない。そこで、値段 が決められているものについては問題ないが、棺のように値段に幅のあるものについて は、あらかじめ、○○はいくらくらいのものというように指定しておくとよい。もっと もそれがどのくらいの品質のものであるかを、あらかじめ確認しておくと、より希望に 近い設定が出来る。次のものはアメリカにおける一般的な葬儀価格である。(資料『ファ イナル・セレブレーション』